これまで数多くの住宅改修に携わってきましたが、リフォームとリノベーションでは設計者としての視点が大きく異なります。リフォームのご依頼を受ける際、私たちの使命は、いかに効率よく、かつ美しく元の輝きを取り戻すかにあります。規格化された最新の住宅設備を、既存のスペースにいかに収まりよく配置するかという、いわば高度なパズルのような作業が中心となります。そこには明確な正解があり、お客様も完成後のイメージを共有しやすいというメリットがあります。一方、リノベーションの設計においては、正解はお客様の心の中にしかありません。私たちはまず、そのご家族が朝起きてから眠りにつくまでの行動パターンや、大切にしている生活の優先順位を深く掘り下げるところから始めます。既存の壁を取り払い、一度スケルトンの状態にすることで、建物の制約をできる限りゼロにし、自由な発想で空間を構築し直します。ここでは単なる設備の更新ではなく、光の入り方や風の流れ、家族同士の適切な距離感といった目に見えない要素をデザインすることが求められます。リノベーションは、古い建物の持つ歴史や趣を尊重しつつ、現代の技術で新たな機能を上書きする、極めて創造的で文化的な行為だとも言えるでしょう。建築士としては、リフォームは精密なメンテナンスであり、リノベーションは新たな建築の創造であると捉えています。例えば、古い柱をあえて残してデザインのアクセントにしたり、あえて天井を抜いて構造体を見せたりするのはリノベーションならではの醍醐味です。どちらの手法が優れているということではなく、その建物が持つポテンシャルと、住み手にとっての最善の形は何かを模索し続けることが、私たちの役割です。建物の限界を見極めつつ、その枠組みの中でどれだけ豊かな暮らしを提案できるか。リフォームの正確さとリノベーションの柔軟性、その両方の視点を持つことが、住まいを真に再生させるためには不可欠なのです。